ひみつノート

とりとめのないただの日記です。

最近読んだ本 2021年 8月

恋愛中毒

山本文緒

主人公水無月は恋に溺れると常軌を逸した行動をとってしまうタイプの女性で、選ぶ男が悪いとか、さすがに恋に狂って犯罪を犯してはいけないとか色々言えるけど、怖いのはそういった狂気的な部分が自分にはないと完全には言いきれないところだった。今は姿をひそめているだけで、何かをきっかけに出てくるかもしれない。若い頃ならまだしも、今この歳になってもまだ自分にそういった狂気じみた部分があったらどうしようと考えながら読んでしまって恐ろしかった。そして散々恐ろしがらせて迎えるラストシーンの鮮やかさが私は大好きである。あとこの人の書くビールの描写が美味しそうすぎて禁酒中の身には苦しかった。

 

TSUGUMI

吉本ばなな

年々吉本ばななのすごさが分かってきている。中学生の頃初めて吉本ばななを読んだ時は、読みやすいし、キャラクターも魅力的だし、ストーリーも面白いしと思って読んでいたけど、中学生にも分かるやさしい言葉で人を引きつける物語が書けることがすごいのだ。TSUGUMIも、このつぐみという憎めない性格の悪さを持った唯一無二のキャラクターがとにかく良いし、海辺の旅館を舞台にした眩しい夏の物語の中に含まれる生々しい生と死が、何回読んでもぐっとくる。30年前に牧瀬里穂で映画化されているのは知っていてピッタリな配役だと思っていたけれど、たとえばもし今つぐみをやるとしたら誰になるのだろう。

 

ジョゼと虎と魚たち

田辺聖子

角川文庫の文庫版、初版は昭和六十二年になっている。30年以上昔の作品なのに、男女のあれこれはいつの時代になっても変わらないのだなと思うほど古さを感じなかった。映画化されているジョゼと虎と魚たちは短い短編なので、だいぶたくさん肉付けされて映画になっているのだ。映画はとても切ない展開で終わっていくのだが、原作は全然そんなことはなく優しさあふれる短編で、原作にあんなにオリジナル要素を増やして映画にして、あんなに素敵に出来上がっているのがすごい。いつ挟んだか分からないオレンジの板ガムの包み紙が本に挟まっていた。なんとなくそのままにしておいて次読む時また見つけようと思う。

 

1Q84 BOOK1 4月〜6月

村上春樹

買ってから12年寝かせてしまっていたのがやっと読めた。2回読みかけて途中で挫折して、今回が3回目の成功になる。長編小説って、実生活が忙しすぎると私はまったく頭に入って来なくなってしまう。以前読んだ時はギリヤーク人のくだりが永遠に続く気がしてもうだめ・・・となっていたのに、今回はその部分も一瞬で読めた。自分が今小説が読める精神状態にあることを喜ぶべきだ。ストーリーは、ふうんと思って読んでいたけどラスト5ページですごいハッとさせられたので村上春樹ってやっぱり上手いんですね。いや当たり前なんですけど。最後の引きが良すぎたので2冊目を読むのも楽しみになっている。

 

ダンス・ダンス・ダンス

村上春樹

コロナ自粛が始まってから3回読んだ。この本が一番精神が落ち着くのである。ストーリーは過酷なのに、主人公がきちんと淡々と日々を送っているところがほっとするのだと思う。でもストーリーは過酷だ。文体と主人公の性格のせいで全然過酷そうに思えないけれど大変だ。私ならきっと耐えられないと思う。けれど彼は波乱万丈な日々を自分なりに泳いでいる。この物語で一環しているのは、人事を尽くして天命を待つ的な、必要な何かがやってくるのを待つという姿勢でそれも良い。村上春樹作品がいつもそうかといえばそうじゃない物語もあるので参考にしすぎると良くないのかもしれないけど。私はとにかくずっと主人公の彼の幸せを祈っている。

 

8月はいっぱい本を読んだと見せかけて、並行して読んでいたものが一気に読み終わったというだけで、長編はどれも数ヶ月前から読んでいるのです。